コラム
パッチム(받침)— 日本語の「ん」は、韓国語の三つの音を隠している
まず、日本語の話から始めます。
「あんない(案内)」「あんぱん」「あんこ」を、ゆっくり声に出してみてください。三つとも「ん」ですが、口の中は全部違います。
- あんない — 舌先が上の歯ぐきにつく
- あんぱん — 唇が閉じる
- あんこ — 舌の奥が持ち上がる
日本語話者はこれを完全に自動でやっています。後ろに何が来るかで勝手に変わるので、意識したことがないはずです。どれも「ん」だからです。
韓国語では、この三つが別の文字で、別の単語になります。
- 산 — 山
- 삼 — 三
- 상 — 賞
日本語の耳にはどれも「サン」に聞こえます。でも韓国語話者にとっては、まったく違う三つの語です。
ここが大事なところです。日本語話者は必要な口の動きをすでに全部持っています。足りないのは新しい筋肉ではなく、「どれを使うか自分で選ぶ」という意識だけです。
パッチムとは
ハングルの一文字は「初声+中声(+終声)」で組み立てられます。この終声、つまり音節の最後に来る子音が받침(パッチム)です。
한なら ㅎ+ㅏ+ㄴ。この ㄴ がパッチムです。
27の綴り、7つの音
パッチムの位置に書ける子音字は27種類ありますが、実際に出る音は7つだけです。残りはこの7つのどれかに吸収されます(代表音)。
| 代表音 | 綴り | 例 |
|---|---|---|
| ㄱ | ㄱ ㅋ ㄲ ㄳ ㄺ | 국(スープ)・부엌(台所)・밖(外)・닭(鶏) |
| ㄴ | ㄴ ㄵ ㄶ | 산(山)・앉다(座る) |
| ㄷ | ㄷ ㅅ ㅆ ㅈ ㅊ ㅌ ㅎ | 옷(服)・낮(昼)・꽃(花)・밭(畑) |
| ㄹ | ㄹ ㄼ ㄽ ㄾ ㅀ | 달(月)・싫다(嫌だ) |
| ㅁ | ㅁ ㄻ | 삼(三)・삶(人生) |
| ㅂ | ㅂ ㅍ ㅄ ㄿ | 밥(ごはん)・앞(前)・없다(ない) |
| ㅇ | ㅇ | 상(賞) |
つまり 옷(服)と 낫(鎌)と 낮(昼)は、単独で読むかぎり終わりの音が同じです。綴りは、音が区別していない違いを保存しているわけです。
(この表は「単独で読んだとき」の話です。後ろに母音が来ると話が変わります — それが次の記事の内容です。)
日本語話者の落とし穴は二つだけ
その1:母音を足さない
밥 は「パプ」ではありません。唇を閉じて、そこで終わりです。「プ」の母音を足すと音節が一つ増えてしまいます。
同じように 국 は「クク」ではなく、舌の奥で息を止めて終わり。밖 も「パク」ではなく、そこで止まります。
カタカナで韓国語を書くとどうしても母音がついてくるので、カタカナ表記に頼るほどこの癖が固まります。
その2:ㄱ・ㄷ・ㅂ は「開放しない」
この三つのパッチムは、口を閉じた(塞いだ)まま終わります。息を出して「破裂」させません。
日本語で一番近い感覚は促音「っ」です。「あっ」と言って止めたときの、あの喉が閉じた状態。국は「クッ」で止めた形、밥は「パッ」を唇で止めた形に近くなります。
ㄴ・ㅁ・ㅇ・ㄹ にはこの制限はなく、音を伸ばせます。
練習に効く三つ組
冒頭の三語を、鏡を見ながら順番に言ってみてください。
- 산(山)— 舌先が歯ぐきにつく
- 삼(三)— 唇が閉じる
- 상(賞)— 舌の奥が上がる。唇も舌先も動かない
口の形が三回とも違っていれば、正しく区別できています。同じ形のまま三回言っていたら、それは日本語の「ん」で三つとも読んでいるということです。
次の疑問
옷(服)は単独では「オッ」と読みます。ところが 옷이(服が)は「オシ」になります。
ㅅ はどこから戻ってきたのか。これが연음화(連音化)で、次の記事のテーマです。